2025年2月19日水曜日

居合道八段 宮崎県から2名誕生!!

 令和6年度に宮崎県から居合道八段が2名誕生しました。

 お一方は令和653日に県内で33年ぶりに取得された佐藤三郎先生、もうお一方は令和6年12月3日に県内女性初で取得された金山富子先生。お二人は当然お知り合いで、道場は違うものの相互に研鑽しあいながら八段への道を歩まれました。

 そのようなお二人に話を聞いてみました。


〇 プロフィール




〇 座談会(敬称は省略させていただきました。) 


筆者 昨年、県内から居合道八段が2名誕生しました。そのお二人にお話をお伺いしたく時間をいただきました。今日はよろしくお願いします。

佐藤・金山 よろしくお願いします。

筆者 居合を始められたきっかけを教えてください。

佐藤 高校を卒業して就職しましたが、それまで剣道をしていたのですけど、仕事が終わってからでは剣道の稽古時間に間に合わなくなりましたので、道場の先生からの勧めもあり、時間的に可能な居合道を始めることになりました。

金山 私は、元々子供の頃に、剣道雑誌に掲載された居合のご高齢の先生の写真を見て、居合に心を惹かれていました。就職して、宮崎日日新聞に掲載された県内最年少で居合道五段を取得された先生の記事を読んで、その先生が私の職場とご近所だったということもあり、「居合って習えるんだ。」と思ったことがきっかけです。あくまでも、剣道雑誌で見た先生への憧れです。

筆者 それからお二人ともずっとコンスタントに稽古を重ねられたということですか。

金山 私の場合は子育てや親の介護で休みましたけど・・・そうですね。長く休むことはなかったです。

佐藤 私は就職してしばらくは剣道から離れて、子供が剣道を始めて再開しましたが、その間も居合はずっとしていました。しかし段位にはあまり興味がありませんでした。試合は、延岡市内や県内の試合に出ていました。五段から全日本居合道大会に出られるようになり、そのころからスイッチが入り、一生懸命に稽古しました。


筆者 居合の難しさはどういったところでしょう。

佐藤 いっぱいありますよ。一番は、仮想的だから仮想に向かって演武ができるかというところが、私は一番難しいと思います。敵がいるように切らないといけない。技としては自分が全部勝ちますが、そこを表現することが精神的に難しいですね。金山先生の場合は?

金山 同じです。私の場合は不器用なので、小指一本使い方を間違えると刃筋が狂うわけです。足も送った足が1センチ違ってもバランスを崩すといった細かい技術の難しさがあります。同じことが毎回できないです。

佐藤 繊細さはありますね。その日によっては刃音が違うんです。特に若いときは。今はそこまでありませんが。刀は樋が彫られているので正しく振れば羽音がしますが、今日は何で出ないのかなという日や、技によっては袈裟に切りおろした際に刃音が出ないことがあります。そういう時は手の握りが悪い。体力的にも落ちてきたときはバランスを崩したりします。

金山 ちょっとさぼるとそのようなことが出てきます。

筆者 居合の魅力と言ったら何でしょうか。

佐藤 居合って全日本剣道連盟の12本の技で、級から八段まで同じ技なんですよ。審査も同じです。演武を見てこの人は五段だなあ、六段だなあと分かります。初級から八段まで同じことをやって表現が違うというのが、魅せるというかオーラが出ると言いましょうか、段位によってそこを表現できることが魅力ですね。真剣も使うし、正装で稽古もするし、そういった魅力もあります。正装するとスイッチが入りますね。

金山 私が圧倒的に惹かれているところは、神秘性です。すごく美しいと思っています。所作や日本刀の持つ美しさですね。

筆者 私は剣道で剣道形を稽古した際そういったところは感じていますが、居合をされる方は、また全然違うんだろうなと思います。

佐藤 剣道形は、「カタチ」に追われますね。

筆者 そうですね。剣道形は「カタチ」の指導中心で、その先もしっかり稽古すべきだと思います。居合のことは全然わからなくて剣道していますが、本来居合と剣道は車の両輪であると感じています。

佐藤 居合をやられると、剣道の形も違ってくると思います。以前、剣道八段の先生とお話ししたときに「剣道は刀を竹刀に持ち替えたものなので、考え方は居合と同じですね。」とおっしゃっていました。

筆者 それでは、居合を極めよう、八段を取得しようと思われたのは?

佐藤 段位にはほとんど興味はなく、七段も何回か落ちたんですね。七段を取得し八段を受験できるという2年ぐらい前から、私の師匠に「八段に向けた稽古をしておけ。」と言われていました。

それで、年齢的には今かなと思い受けてみようと軽い気持ちで受けたら、たまたま1次審査が通ったんですよ。しかし、2次審査には硬さが表れていていたようでした。しばらくしてほかの人から、「運が良ければ通るという気持ちだっただろう。」と見透かされ、それだけ薄く、まだまだだったのかなと思いました。それでスイッチが入って、やるならやってみようかという気持ちになりました。

筆者 金山先生は?

金山 私の歩む先に八段という山があって、この道を歩むなら登ってらっしゃいという宿題を与えられているように感じていました。ですから、自然な流れで目指す事になりました。目に見えないお方から与えられた使命のようなものです。

筆者 金山先生は、以前剣道されていましたよね。いつの間にか見なくなって、しばらくすると杖道や居合道をやっているという話を聞くようになったのですが・・・

金山 私は高校3年生の時に、剣道・武道からいったん離れたい、普通の女子に戻りたいと思っていました。しかし、子供のころから武道をやっていたので、武道から離れていると、自分の中の芯が通っていないような感じがしてきました。そのような時に先ほど話した新聞記事を見て居合を始めました。それからはどんどんはまっていき、面白く魅力に取りつかれ、離れられなくなりましたね。剣道をやっていたときは負けた時の感情が嫌で、上手くならないまま、精神修養もできていないまま止めてしまいましたが、居合は相手が自分であり、自分のペースでやれたのも続けられた要因ですね。

筆者 極めようと思ったのは?
金山 まだ極めていないです。終わりがない感じです。
佐藤 八段は合格したけど、自分が納得いく技はまだ抜けていないですね。
筆者 八段に向け納得するものを目指し、合格はしたもののまだ納得するものはないから、更に極める・・・極めている真っ最中ということですね。
金山 そうですね。
佐藤 極めることはないですね。人それぞれ違います。女性は女性なりの良さもありますし、男性の力強さもあります。それらを全部到達することはないのかなと思いますね。
筆者 お二人は、県内の居合道界を引っ張って行く貴重な存在になると思います。
金山 今回の八段取得は、県内の居合をする方にとって励みになったと思います。
筆者 八段に向けてどのような点を努力されましたか。
佐藤 日勤の時期は、勤務が終わってからなのでそれほど稽古量は多くありませんでした。交代勤務になってからは時間が取れたので、稽古量が増えました。道場では指導ばかりで自分の稽古ができませんでした。そのため、自由な時間に近くの道場を借りて稽古させてもらったのが良かったです。一人稽古だから見てもらう人がいなかったので、自分でビデオを撮りました。ビデオを撮ると人から見られている気持ちになるので、やり直したいけどやり直さず最後まで続けました。また、ビデオを見返すときは、自分じゃないと思って悪いところを見つけるように見ていました。金山先生にも客観的に見てもらいましたが、ダメ出しがバンバン来ていました(笑)
金山 ダメ出し大好きです(笑)
佐藤 そういうダメ出しを受け入れないといけません。見てもらう人は大事です。 道場が違うので、見る目も違う。県外に行けばまた違う指導がある。いろんな方から指導を受けられましたので、恵まれていたと思います。
   毎日稽古しましたが、そこまでのめりこまないと通らなかっただろうなと思います。ただ、稽古は量を増やせばいいというものではないと思います。あまり増やしすぎると体を痛めます。正しい居合の見直しが大事ですね。見直しをして正しい手の内や体捌きになったら体は傷めないものです。
  金山 私の中で大きかったのは、4年前に全日本居合道大会に出るようになったことです。大会に向け、毎週日曜日の強化が始まり、宮崎から延岡に通いました。それまでは、30代の独立を機に1人で稽古をしていましたが、強化稽古で県内の七段の先生や監督、副監督から指導してもらうようになりました。
   全日本を全日本を目指すことは、イコール八段の準備でした。大会では自分をアピールするため、ちょっとでも爪痕を残そうと頑張りました。稽古量に関しては、自宅に稽古場を造ってもらっているので、日本一稽古する人になろう、日本一努力して審査を受けようと思い稽古していました。大体4年前から週5日、1日2時間から3時間は稽古していました。大会が終わりましたら、燃え尽き症候群になり1か月ほど休みましたが、それ以外は週5日の稽古でした。特に50日前作戦として、八段審査前50日間は週5日から週6日に増やして1日3時間の稽古を続け、完遂しました。


筆者 八段審査方法について教えてください。

金山 1次審査は、全日本剣道連盟指定12本のうち、その日の審査前に6本を指定されます。それを7分以内に演武しなければなりません。

佐藤 そのため、中には間違える人もいます。大会も同様にその日に指定されるんですよ。

筆者 7分以内ということは、1本1分という訳ではないんですね。

金山 礼法(刀礼)1分を入れるので、7分となります。

 筆者 2次審査は全部ですか。

 佐藤 はい。時間が短い演武もあるので、刀礼を含めて12分となっています。

 筆者 昇段審査の時は、真剣を使うのですか。

 佐藤 はい。六段以上が真剣を用いることになっていますが、昔から慣例として大会も含めて、五段以上は真剣を用いています。

 筆者 その真剣は、会場に用意されているものですか。

 佐藤 いいえ。自前です。体格が違うので、重さや長さ、柄や鍔の大きさなどが変わってきます。自分に合った真剣を自分で用意しています。

 筆者 合格のポイントは。

 佐藤 ①美しい礼法・着装・姿勢 ②理に適った剣捌き・足捌き・体の運用 ③正しい手の内や刃筋・鎬の使い方 ④残心・目付・呼吸法 ⑤品格・気位 ですね。

剣道形と同じように、ここまで下ろしなさいとか、水月を突きなさい、胸を突きなさいなどが正確な抜き付けや切り付けになり、着装もきちんとしなければなりませんね。心の面は金山先生どうぞ。

 金山 待ち時間が長いのですが、不要な動きはできません。そのような状態で待っているとマイナスの感情(落ちてまた受けなければならないのかなど。)が出てきます。そいった負の感情を払いのけることに終始していました。自分に「大丈夫、大丈夫。」と言い聞かせていました。

 佐藤 どうしても緊張はするんですよ。しかし、緊張した方が集中力は高まりますね。それから、演武の時には目でも切るんです。ひょうひょうと抜いてもダメ。すべての行動に心の落ち着きが必要です。

 筆者 体捌きはどうですか。

 佐藤 稽古するしかなかったですね。どこに力を入れていいかわからない時期もあります。人によって教え(表現)が違いますからね。例えば「力みなく力強く」など。難しいです。だから迷う人がいます。人の教えを聞きたくないという人や講習会に来ない人もいますが、そういった人は合格していないですね。

 筆者 風格、品位は?

 佐藤 その人のオーラでしょうね。八段を合格してから、「これから大会とか講習会で相当疲れるぞ。」と言われましたが、そういった風格、品位の部分でしょうね。大会等の会場に来るときには、絶対にスーツで来るようにと言われました。会場に入る前から整えることですね。それを帰るまで。

 筆者 八段を取得して思うことは。

 金山 とにかく下手にならないことですね。

 佐藤 これで八段かと言われないように。

 金山 そんな目で見られますね。

 筆者 お二人にとって居合道とは。

 佐藤 巡り合えただけでも良かった。剣道とは違った魅力があります。敵がいない、敵を想像してやるところ。稽古するとき何もかも忘れられ、のめりこむことができます。真剣を使うので刀を振りながら他のことは考えられない。そのため無心になれます。

 金山 私は、生活の一部です。生きていく上でのプライドみたいなものを与えてくれたものが居合道でした。私にとって居合道は誇りです。

 筆者 今後、居合道をどうしたいですか。

 金山 普及ですね。これにつきます。

 佐藤 剣道人口も少なくなっているとはいえ剣道の認知度は高いですが、居合道は認知度が低いです。真剣を使うので集中して武道に取り組むことができるということが魅力的なんですが、そういうものの発信が難しいなと思います。武道は、ほかのスポーツのように笑い合いながらやるものではないので、魅力を発信することが難しいと思っています。

 筆者 そういう魅力の発信は、宮崎県剣道連盟の役目だと思います。剣道連盟には剣道だけでなく居合道や杖道もあるわけですので、剣道に限らず居合道や杖道を普及させることが剣道連盟の仕事だと思います。

 佐藤 今回八段が二人通ったからですね。

 筆者 居合のいいところを広報していくことが、剣道にもいい影響を与えると思います。

 佐藤 剣道される方は刀にも興味がありますからね。普及が一番、どうやって魅力を発信するかですね。