令和7年3月1日(土)から2日(日)にかけて、宮崎県体育館で中央講習会が開催されました。開講式に先立ち、宮崎県剣道連盟副会長の中島康雅先生に対して、全日本剣道連盟からの2024年度剣道有効賞(剣道の発展、普及に尽力された功績に対し贈られる賞)の表彰がありました。
今回の講習は、コンプライアンス研修に公益財団法人宮崎県スポーツ協会から木村 富 講師、日本剣道形及び審判法に兵庫県の 二子石 貴資 範士、審判法には二子石範士に加えて大阪府の 佐藤 博光 教士八段 及び地元講師の 夏井 保 教士八段により行われました。
2日の講習会終了後は、四,五段の昇段審査会がありました。
<1日目>
〇 コンプライアンス研修
倫理コンプライアンス スポハラ根絶に向けて
~誰もが安全・安心にスポーツを楽しめる社会を作るため~ 木村講師
講義の概要は、次のとおりです。
JSPO(日本スポーツ協会)に寄せられたスポーツにおける暴力行為等の相談件数は年々増加傾向であり、以前は暴力が多かったが近年では暴言やハラスメントが多くなっている。また、これらが不適切行為かどうかを判断することが難しいという相談が多い。相談者の7割が小・中・高校生で、そのうち6割が保護者からの相談である。
ハラスメントの定義(相手の意に反する行為によって相手を不快にさせたり、人間としての尊厳を傷つけたりする行為)やハラスメントの種類(50種類以上)、ハラスメントの内容(パワハラ、モラハラ、セクハラ、ブラハラ、ハラハラ)の説明があった。
スポーツにおいては、勝利至上主義や集団主義、権力関係などの特殊性があり、それらの要因と行動が重なり「スポハラ」が起こっているが、行為のどこからどこまでがスポハラにあたるのかの線引きは難しい。
JSPOは、公認スポーツ指導者やスポーツ少年団登録者に対する処分の規定を作っており、「暴力・暴行その他の不適切な行為」、「暴言その他の精神的虐待」などやってはならないことを示している。それらを行った場合、公認スポーツ指導者は、「注意」、「厳重注意」、「資格停止」、「資格取消」、スポーツ少年団登録者は「注意」、「厳重注意」、「有期の活動禁止」、「無期の活動禁止」のそれぞれ4段階の処分を行うことになっている。暴力やパワハラなどの行為に対する処分結果について、具体的事項により説明があった。
指導のあり方として、これまでの否定的な指導法ではなく、激励する指導法(勇気づけの言葉かけ)が望ましい。
大切なポイントとして、
①
事実を受入れ【受容】、
②
「人を悲しませたりいやな気持ちにさせる言葉(プッペトーク)」から、「人を笑顔や元気にする言葉(ペップトーク)」へ、捉え方をポジティブに変換し【承認】、
③
「ミスをするな」など否定的な言葉を使わず、前向きな「してほしいこと」を具体的にわかりやすく示し【行動】、
④ 選手のタイプに合わせて、「全力になれる」、「前向きになれる」言葉をかけ、背中の一押しをする【激励】。
指導者や大人が伝え方を変えると、自分自身や周りが変わる。特に子供たちを指導する際には、ぜひペップトークを使ってもらいたい。
未来ある子供たちのために、スポーツに関わる人たちのために、全ての人のために、そしてスポーツの価値を高めるために、安全で安心にスポーツを楽しめる社会をつくること、また、スポハラはあってはならない「NO!スポハラ」という価値観を持っていただくことをお願いしたい。スポーツを支える側が専門的な指導力だけでなく、予測不能かつ変革が求められるこの時代において、こういった視点・感覚を磨いていくことが求められる。
〇 講話 二子石講師
講話では、講師のこれまでの剣道に関わる経験に基づく所感を話されました。その中で、柳生心陰流の教えに三磨の位の話があり、「三磨の位には「習」「錬」「工」とあり、「習」が上の三角形で説明されることが多い。これは「習」が一番大切だということ。そのために良い師を3年かかっても探せとの教えがある。」と説明されました。そのことを踏まえて、「皆さんもその良い師となってほしい。少子化の時代、正しい剣道を教えてほしい。指導者自身が楽しいと思わないといけないし、こどもに寄り添った指導をしてほしい。」など、激励や指導者としてのあり方の話がありました。
また、ご本人の座右の銘「剣縁」について話され、「交剣知愛より広い。剣道を通して、剣道をしていない人も含めた「縁」を大事にしている。皆さんも剣道を通してたくさん交流してほしい。自分の修行も忘れずにやってほしい。」と締めくくられました。
〇 日本剣道形 二子石講師
講義の概要は次のとおりです。
現在は、日本剣道形をユーチューブで練習している人もいるが、ユーチューブでは刃引きでの紹介のため木刀との違いがあり、そのため審査で落ちているケースもある。先ほど話したとおり、形も良い師に付いて稽古することが大事である。
形はメリハリが大事で迫真性(一拍子の打ち、髪の毛一本までの打ち)が求められる。しかし、審査前にしかやらないなど形がおろそかにされている。
打ち太刀の打つ機会として、太刀の形は「機を見て」、小太刀の形は「入り身になろうとするところ」とあるが、これらの違いが大事である。「機」は「きざし」、「入身になろうとするところ」は形には表さないといった違いがある。
「気位」とは、鍛錬を積み重ねたことによって得られた自信から生まれる威力・威風のこと。「位詰」とは、相手に対して優位な体制を整え充実した気位で相手を攻め寄ること。「気争い」とは、双方の先に攻めようとする気の争いのこと。「気当り」とは、相手を“打つぞ”、“突くぞ”という気持ちで攻め、相手の心の反応を見たり動きを予知したりすること。これら形の解説に出てくる言葉を理解することが大事である。
構えには、由来や歴史的な背景がある。その中で太刀の形1本から3本に剣道の精神が集約されており、1本目が「義」で正しいことを正しいとする。2本目が「仁」で慈しみ哀れみ、3本目は「勇」で傷つけない精神で活人剣と説明している先人もいる。
実技では、太刀1本目から7本目、小太刀1本目から3本目を順次、注意事項を示されたうえで練習させる方法により進められました。
<2日目>
審判の実技に先立って、二子石講師による座学がありました。概要は、次のとおりです。
審判は、剣道普及のための一方策である。
コロナ禍における暫定的な審判法は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行して元の審判法に戻ったわけではなく、「剣道試合・審判・運営要領の手引」きに反映されている。その中で、一呼吸は外国などでは分かりづらいので、具体的に3秒と示している。
審判をする上では反則ばかり目が行っているが、一番は有効打突をしっかり見極めること。そのためには経験則が大事であり、剣道試合・審判規則第1条に書いてある適正公平に審判をすること。このうち公平については、選手本人やその親などを知っているときに本当に公平にできるかどうかというところをしっかり考え、公平さを持っていただきたい。反則の判断はその場面の事象だけでなく、それまでの流れを見ること。
審判をする上での注意事項として、
・宣告は大きな声で明瞭に行う。
・選手が場外に出た時などに副審が「止め」の旗の表示をすることがあるが、その際は宣告もする。
・有効打突後に選手を目で追う。
・有効打突は、部位をとらえていることが大前提。突きや竹刀越しの打ちはしっかり見極めること。
・旗の上げ間違えをしないよう目印をしっかり確認しておく。
・合議などで審判旗を片手で持った後には、持ち間違えないよう気を付ける。
・試合の最初の「始め」は蹲踞してすぐに宣告するのではなく、気が充実したところで宣告する。これも試合の活性化の一つである。
・けがによる続行不能での不戦勝ちは、合議の上宣告する。
等々
〇 審判法(実技) 二子石講師、佐藤講師、夏井講師
まず、二子石講師により、旗の上げ方など審判における基本動作の説明があり、実際の表示を全員で行いました。
その後、試合の審判を受講生が行う中で、有効打突の見極めや位置取り、反則の適否など、佐藤講師や夏井講師による指導がありました。
実技講習後に二子石講師より、「合議が長い。短時間で済ませること。」、「規則にない不適切な行為は、第1条の公明正大に照らし合わせて反則か否かを判断すること。」、「副審同士がいつでも確認取れる位置取りをすること。」などの評価があり、子どもが嫌にならないよう適正な審判を行うようにとの総評がありました。
〇 宮崎県剣道連盟審査会(四・五段)
3月2日講習会終了後に四・五段の審査会がありました。結果は、次のとおりです。